新解釈 熊本の郷土料理 熊本ガストロリジョン
花小町 熊本県熊本市植木町
オーナーシェフ 本田広之
地元産の食材にとことんこだわり、その持ち味を生かすことで、新たな価値を料理に与え、その土地の魅力を伝える。この「ガストロリジョン」と私たちが呼んでいる郷土料理の実現に、本田シェフは、熊本で日々取り組んでいます。
生産者の人柄が反映された個性豊かな食材
以前は都会でフランス料理をつくっていました。独立して熊本に帰って来たら、いろいろな個性をもった生産者と知り合うわけです。個性のある生産者が手がけた野菜は、やはり個性があるんですよね。
その野菜を使って、自分が今まで習ってきたフランス料理をつくっても、おいしくない。何回つくっても、おいしくない。口に合わない。このとき、食材が違うということはこういうことなんだと、初めて気がつきました。食材が違えば、当然、料理も変わってくるんですよね。
そこで選択を迫られるわけです。今まで習ってきた料理をつくり続けるのか、熊本の生産者のつくった野菜に合わせて料理をつくるのか。そう考えたときに、僕としては熊本の食材を使っていきたいという気持ちがあったので、今までのやり方から、食材を生かす料理に変えていこうと決めて、「新しい熊本の料理」というものを考え始めました。
熊本は食材が豊富で、一年中、熊本の食材だけでコースをつくることが可能なんです。熊本には山があります。里があります。そして、畑がある、川がある、海がある。そこでとれたものを使えば、一年中、なにも困ることはないですね。
僕の料理では、同じ地区の食材を合わせることがすごく多いです。熊本の南のものは南の方の食材と、北のものは北の方の食材と合わせます。先日、阿蘇の井伸行さんの赤牛に阿蘇の高菜と高菜の種の自家製のマスタードを合わせました。やっぱりね、すんなり口の中に入ってくるんですよね。同じ地区のものを合わせるって、ちゃんと意味があるんだなと実感しました。
生産の現場の空気を吸えば新しい発想が湧く
生産者さんのところには、定期的に足を運ぶようにしています。店のキャパシティは決まっているので、いろいろな種類のものをたくさんは仕入れられないんですけど、季節ごとに「これは欠かせない」という食材は、生産者の方のところに直接出向いて、お話をして仕入れています。
生産者の方とのおつきあいもだいぶ長くなってきたので、お互いに細かいことを言わなくてもやりとりができるようになっています。それは、ありがたいことです。生産物は自然の産物なので、いい年もあれば悪い年もあります。僕としては、いいときは買うし、悪いときももちろん買う。そうやって、生産者さんを支えていく。そういうつきあい方をだいぶ長くやってきました。
生産者さんもこちらの顔が見えるので、僕がちゃんと食材と向き合っていることがわかるのでしょう。「野菜を使ってもらって嬉しい」「ありがたい」というお声をたくさんいただきます。こういう関係はこれからも続けていきたいですね。
熊本の食材だけを使っていると、新しい発想というのが出てこないときがあります。同じ食材を長年使っていると、周期というかサイクルが決まってくるので、どうしても煮詰まってしまう。そんなときは、その生産地に出向いて、現場を見ます。そこで、新しい発見をすることが本当に多いです。生産者の方と話して、その土地を見て、風を浴びて空気を吸う。そうするとまた新しい発想が湧いてきます。本当にね、大地に感謝です。
県外の方から改めて教わる熊本食材の価値
熊本の中だけにいると、熊本の食材の価値がわかりづらくなってくるんですね。なぜかと言うと、その食材があることが、当たり前になってしまうので。当たり前になっちゃうと、その食材の価値っていうものをなかなか見出せなくなる。それは、僕もそうだし、熊本の生産者の方もそうですね。
そんなときに、熊本県外のお客様から、こちらがハッとするようなお言葉をいただくことがあります。そこで改めて、「あぁ、この食材にはやっぱり価値があるんだな」「これは熊本が大事にしなくてはいけないなぁ」というふうに気づかされる。そんなことがたくさんあります。
そういうのは、遠く離れた県外から来た方じゃないと、なかなか見つけられないんですよね。だから、どしどし県外の方に来ていただいて、熊本の価値というのを僕に教えていただきたい。もちろん、僕も熊本の魅力をお伝えしますので。
熊本には、四季折々に風土の特徴が出た食材がたくさんあります。一年中、生産物が絶えません。それらを使って、みなさんに熊本を感じていただけるような料理をつくっていこうと思っています。ぜひ、熊本に足を運んで、熊本の食材を使った料理を食べてください。そして、熊本を感じていただければ、とても嬉しいです。
<DATA>
ガストロリジョン
花小町
熊本県熊本市北区植木町岩野266-22
TEL 096-272-3789
@ura_komachi