四世代が集える店を目指して

四世同堂 福岡県糸島市

台湾料理を皮切りに、四川、広東といった中国料理を学んだ山本俊亮さんが、自身初の店を構えたのは自然豊かな福岡県・糸島でした。この地で、食べる人の心と身体を癒す、優しい料理をつくっています。

「塩」から自分の料理を見つめ返す

「生まれは静岡です。名古屋の台湾料理店で働いた後、東京に出て四川料理と広東料理の店に入りました。薬膳や漢方についても学びました。それは、いまつくっている料理にも役立っています。元々自然がすごく好きで、植物や生き物にも興味があって、以前から畑で野菜を育てたいとも思っていたんですよね。そういう気持ちが先走って、移住しようと思い立ったんですが、どこに住もうかと。結局、家族の事情もあって、九州に住もうということになって、いろいろと調べて、自然に恵まれていて、都会にもアクセスしやすい糸島の前原に決めたんです」

「糸島に住み始めてからは、まず塩屋で働きました。広東料理の師匠に”酢のつくりかた、醤油のつくり方、砂糖のつくり方、塩のつくり方を言ってみろ”と言われたことがあって、そのときは、まったく答えられなかったんですよね。和食は引き算なので、塩に詳しい職人さんが多いんですが、中華は足し算の料理なんで、そこに意識が行ってなかった。これは恥ずかしいな、料理人なのに塩や酢のつくり方も知らないのはやばいなと。調味料の原点は塩だし、人間は塩がないと生きていけない。だから、九州に行ったら塩屋で働きたいって思っていたんです」

畑と海はつながり、自然の恵みが循環していく

「塩屋では併設していたレストランで2年間働きました。この店をオープンしたのは、2021年1月。食材が新鮮なので、どうやったらそれを生かせるのかを考えて、足し算ではない中国料理を提供しています。当初は魚を買うルートを開拓するのが大変でした。そのうち糸島産だけだと供給が安定しないことに気づいて、いまでは、宮崎や長崎の契約している魚屋からも買っています。野菜はスタッフの知り合いの自然農をやっている方や有機農法で野菜を作られている方々から仕入れていますし、自分も山の麓に畑を借りて、スタッフといっしょに野菜やハーブを無農薬で栽培しています」

「無農薬野菜にはこだわっていますよ。魚が減っていると最近言われるけど、農薬の影響もあるんじゃないかと思うんですよね。糸島でも農薬を散布しているのを見かけるし、その農薬が川を通じて海に流れ出して、魚が減る。そんな連鎖が起こっているんじゃないか。そういう、自然の循環は意識しますね。広東料理の師匠からは”小さい魚は買うな。海の環境を乱す”と言われていましたし、東京にいるときは、持続可能な食文化についての勉強会にも参加していました。お客様もサスティナブルに関心のある方が多い。そんな方が全国からお見えになっています」

お客様の記憶にいつまでも残る店になれれば

「『四世同堂』という店名は、店を開くずっと前から決めていました。中国の言葉で、”4世代が同じ屋根の下で暮らすことが最高の幸せ”という意味です。小さなお子さんから、その子のひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんまで、4世代に召し上がっていただくには、おいしいだけではなくて、身体にとって安全安心な、健康を考えた料理でなくてはならないという想いが根底にあります。だから、使う素材にもこだわりますし、お子さんや年配の方でも食べやすいよう、足し算の料理にならないように気をつけています。そこには、塩屋で働いた経験が生きていますね」

「”四世同堂”という言葉を教わったのは、台湾料理店で働いていたとき。常連だった年配の方が、入院して先が長くないという状態だったんですって。その方は、最後にその台湾料理店のラーメンが食べたいとおっしゃたそうです。なぜかと言うと、ラーメンを食べると4世代でその店で食事をしたときの記憶や想いが、鮮明に蘇るからと。結局、ラーメンは食べないまま他界されたそうですが、食を通じて”四世同堂”の幸せな記憶がつながっていくことってあるんですよね。この言葉を店名にしたうちの店も、お客様の記憶にいつまでも残る店にしたいと思っています」

<DATA>
中国料理
四世同堂
福岡県糸島市前原西1丁目15-18
TEL 092-338-9643
不定休/予約制
@shisei_doudou